その自由で危険な香りに芸術家たちも憧れた、モロッコの港町・タンジェを歩く

ジブラルタル海峡に面したモロッコ北端の港町・タンジェは、ヨーロッパとアフリカ大陸をつなぐモロッコの海の玄関口。20世紀に入ってからは、ヨーロッパからさまざまな人や物資が流れ込む国際都市として栄えてきました。

スペインのタリファやアルへシラスからフェリーでわずか1時間~1時間半という立地から、少し前までは国際商人でごった返し、密輸やスパイがはびこる「ガラの悪い街」として知られていたことも。

いつしか、そんなタンジェ特有の危うさと背中合わせの自由な空気が芸術家たちを惹きつけ、マチスやドラクロワといった画家や、ポール・ボウルズ、ピエール・ロティといった文学者たちの創作活動に影響を与えたといいます。

港の機能の大部分が市内から40キロ離れた新港へと移ったことや、国を挙げての観光化によって、現在のタンジェはひと頃よりも随分と落ち着いた街になり、治安も改善されました。

しかし、タンジェのメディナ(旧市街)には、今もモロッコのほかの街とは違う、どこか猥雑で、エキゾチックで、ノスタルジックな独特の空気が流れています。

タンジェ観光の中心となるのは、城壁に囲まれたメディナ。

白壁の建物が並ぶ風景は南欧を思わせますが、ひときわ存在感を放つモスクの姿が、ここがイスラム世界であることを主張しています。

かと思えば、そのすぐ近くにはスペイン教会があり、タンジェが文明の交差路であり続けてきたことを物語っているのです。

メディナで最も目を引くモスクが、グラン・モスク。

もともとは古いマドラサ(イスラム神学校)だった建物を、17世紀にアラウィー朝のスルタン、ムーレイ・イスマイルが修復、1815年にムーレイ・スレイマンが増築して現在の姿になりました。非イスラム教徒は中には入れませんが、真っ白な建物と緑の装飾とのコントラストが鮮やかな美しいモスクです。

グラン・モスクの前の坂道をそのまま上っていくと、「プチ・ソッコ」と呼ばれる広場に出会います。

広場といってもいくつかのカフェやレストランが並ぶ通りのようですが、観光客でも利用しやすいお店が集まっているので、食事や散策に便利。周辺には入り組んだ狭い路地が張り巡らされているので、迷ってしまったときは地元の人に「プチ・ソッコ?」と尋ねるといいでしょう。

プチ・ソッコ周辺には、陶器やランプ、テキスタイル、革製品など多種多様なモロッコ雑貨を扱うお店が軒を連ねています。タンジェの土産物屋は特定のカテゴリーの商品に特化した専門店よりも、さまざまなカテゴリーの商品を集めて売るお店が主流。

芸術家に愛されてきた街らしく、タンジェのメディナにはストリートアートが点在しています。

なかには観光客があまり通らないような狭い通りに潜んでいるものもあるので、迷路のような路地を歩いてストリートアート探しをしてみるのもいいかもしれません。

プチ・ソッコから坂道を上りながら北に進んで行くと、カスバ(城塞)が見えてきます。

メディナ自体が城壁に囲まれているのですが、カスバに入るにはもう一度城門をくぐるというユニークな構造になっています。

カスバ内にある見どころが、旧王宮を利用したカスバ博物館。

モロッコ各地の宝飾品や陶器、織物などが展示されているほか、モロッコに残る世界遺産のローマ遺跡、ヴォルビリス遺跡のモザイクなどもあり、見ごたえ十分です。

イスラム建築の粋を集めた建物自体も美しく、一見の価値あり。

カスバ周辺には外国人向けのおしゃれなカフェやブティックが点在していて、ひときわアーティスティックな雰囲気を感じることができます。

Kacem Guennoun通りにある大型コンセプトストア兼カフェ「Las Chicas」は、アクセサリーや衣料品、バッグ、インテリア用品など、ハイセンスな雑貨を集めた外国人女性に人気のお店。値段は高めですが、スーク(市場)には売っていないような個性的なアイテムが手に入りますよ。

モロッコのほかの街とは一味違う、独特の「アク」があるタンジェの街には、今も映画や小説の舞台になりそうな不思議な空気が流れています。

スペインから日帰りでタンジェを訪れるツアーも人気があるので、ヨーロッパ側からアラブの風を感じに出かけてみるのもいいかもしれません。

「Las Chicas」
住所:52 rue Kacem Guennoun, Porte de la Kasbah, Tanger

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