北アフリカ最大の神学校、モロッコ・マラケシュ「ベン・ユーセフ・マドラサ」の美しさに息を呑む

北アフリカの国、モロッコきっての観光都市・マラケシュ。マラケシュといえばなんといってもジャマ・エル・フナ広場が有名ですが、世界遺産にも登録されているメディナ(旧市街)には、ほかにも数多くの見どころがあります。

そのひとつが、城壁に囲まれたメディナのほぼ真ん中に位置する「ベン・ユーセフ・マドラサ」。

「マドラサ」とはイスラム神学校のこと。モロッコを旅するなら必ず一度はマドラサを訪れる機会があることでしょう。

モロッコに数あるマドラサのなかでも、マラケシュのベン・ユーセフ・マドラサは北アフリカ最大のマドラサとして有名。1565年にサアード朝のスルタン、アブダラー・アル・ガリブによって建てられ、最盛期には900人もの学生がここで暮らしながら学んでいました。

当時の建築技術の粋を集めて造られたこのマドラサは、アラブ・アンダルシア建築の最高傑作と名高く、現在もその輝きは色あせません。

フナ広場から迷路のように入り組んだ路地が広がるスーク(市場)を通ってベン・ユーセフ・マドラサに向かうとき、この先に大規模なマドラサがあるなんて想像もつきません。

しかし、門をくぐってマドラサの中庭に足を踏み入れた瞬間、メディナの喧騒とは隔てられた静寂の世界に息を呑みます。

マラケシュの青い空の下でバラ色の壁が輝き、その壁は信じられないほどに精緻な装飾で彩られています。

壁面の最下部はカラフルな幾何学模様のタイルに覆われ、その上にある漆喰仕上げの壁にはレースのように緻密な透かし彫りが。さらにその上は、模様が浮き出るように立体的な彫刻が施された木の日よけへと変化していきます。

中庭に隣接する空間では、アーチをもつ白壁に施された立体的な植物文様や、天井の立体装飾に目を奪われずにはいられません。

スペインにある世界遺産のアルハンブラ宮殿にも引けをとらない美しさにただただ、ため息。

ベン・ユーセフ・マドラサの空間の多くを占めるのは、かつて学生たちの寄宿舎として使われていた小部屋の数々で、1階の回廊と2階には130もの小部屋が並んでいます。

彼らが学ぶカリキュラムの中心となっていたのが、イスラム教の聖典、コーランです。人口のほとんどをイスラム教徒が占めるモロッコにおいては、コーランを暗記し、イスラム法について詳しく教わることのできるマドラサが重要な地位を占めていました。学生たちはそのほかにアラビア文学や倫理学、数学も学んでいたといいます。

20世紀になって西洋式の教育が普及するにつれて、モロッコ各地にあるマドラサの多くは次第に権威を失い、教育の拠点としての機能は失われました。ベン・ユーセフ・マドラサも例外ではなく、このマドラサが学校として使われていたのは1956年までのこと。

それでも400年近くにわたってここが教育の場であった事実は、この空間に神聖で清らかなたたずまいを与えています。

2階にも上がることができ、2階の飾り窓から中庭側に顔をのぞかせるのが記念撮影の定番になっています。

西洋の華やかな宮殿のように一見してわかるような派手さのある建造物ではありませんが、見れば見るほど引き込まれるのがベン・ユーセフ・マドラサ。

ここはまさに、細部にこそ魂を吹き込むイスラムの様式美の結晶であるといえるでしょう。

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