「人類の歩み」をこの目で 大英自然史博物館展に行ってみた
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東京・上野の国立科学博物館で行われている『大英自然史博物館展』は、連日多くの来館者を集めています。
ここにある展示品は、どれも人類にとって極めて重要な資料です。これらが存在していなければ、学校で使われている理科の教科書の内容が大きく変わっているはず。我々の住む地球がどのような道を歩んできたのかを示す重大な物証でもあります。
そうしたものを日本にいながら閲覧できるというのは、またとないチャンスではないでしょうか。
・自然考古学とイギリス
18世紀中葉から19世紀は「イギリスの時代」と表現できます。
1702年、ヨーロッパで勃発していたスペイン継承戦争に呼応する形で、北アメリカを舞台にアン女王戦争が起こりました。イギリスはスペイン、フランスと戦い、結果的に多大な利益を得ることになったのです。
その中でも最大のものが、スペインからのジブラルタルの譲渡。これをきっかけにイギリスはその他の欧米列強を抑制することが可能になり、気兼ねなく国外領土開拓に乗り出すことができるようになりました。
イギリスの世界進出は、同時に「世界の姿」を明確にする作業でもありました。天文学、地質学、動物学、自然人類学などの分野で世界中のあらゆるものを研究する事業が急発達したのです。
たとえば、隕石はかつて「天の怒り」や「神のご意思」という形で受け止められてきました。そうであるから隕石は「神がくださった宝物」として奉納されていました。ですがイギリス人の学者は、それをあくまでも研究対象として徴収し、科学的な分析を施しました。
現地人の信仰対象を取り上げたという負の面もありますが、歴史にはどんな事柄にも明暗が存在します。イギリスの国外領土開拓、すなわち各地域の植民地化は「現地の迷信を科学的に解明する」という考えをもたらしました。
・種の起源
それと並行する形で、世界の動植物の生体を研究する事業も確立されます。
アジアやアフリカ、中南米の生き物を標本として採取し、その構造を分析する作業がロンドンで進められました。その中で「異なる種類同士の類似性」というものが取り上げられ、やがて「これら別々の動物は、もともとは同じ種類だった」と考えられるようになります。
世界各地から動物の化石が次々に発掘されたことも、それを後押ししました。動植物にはプロトタイプというべき種類が存在し、そこから少しずつ枝分かれして進化したのではないかという説です。
19世紀中葉、チャールズ・ダーウィンという学者が1冊の本を執筆します。タイトルは『種の起源』。その内容は、人間を含むすべての生物はわずか数種類のプロトタイプ的生物から派生進化したというもの。平たく言えば、「人間と猿はもともと同じ動物」ということです。
これがキリスト教の一派である英国国教会内部で取り沙汰されます。なぜなら、当時の聖書の解釈は「神は人間を最初から“人間”として創造した」というものだからです。人間と猿の祖先が同じだったということは、聖書には書かれていません。中には「ダーウィンの学説と聖書に矛盾はない」とする聖職者もいましたが、やはり宗教勢力の中ではダーウィンを非難する声が相次ぎます。
もっとも、ダーウィン自身もこれに完全な反論はできません。なぜなら、『種の起源』は明確な物的証拠がある上で書かれたものではなかったからです。
・「学会の黒歴史」ピルトダウン人事件
人間とチンパンジーの祖先が同じだったことを証明するためには、化石標本が求められます。ふたつの種類の身体的特徴を兼ね合わせた骨格標本です。
たとえば、ホモ・サピエンスの頭蓋骨と猿の顎を合わせたような化石が出てくれば、ダーウィンの進化論を非難する学者はいなくなるはず。
現代では発掘技術の向上も相成り、世界中から猿人や原人の化石が発見されています。ですがかつて、進化論を無理やり証明しようとした「ピルトダウン人事件」というものもありました。
これはアマチュア考古学者のチャールズ・ドーソンが現生人類の祖先を「発掘」したという出来事で、当時としては驚愕をもって学会に受け入れられました。ピルトダウン人の化石人骨は、ホモ・サピエンスに似た頭部とオランウータンのような顎を持っています。ついにダーウィンの学説に物的証拠が付与された、というセンセーショナルが巻き起こりました。
ですが学会発表から30年以上経ったあとに、この化石が本当に「人間の頭蓋骨とオランウータンの顎」ということが判明します。つまり、両方の骨を組み合わせた捏造物だったというわけです。
このピルトダウン人事件は、自然学会の黒歴史として学者たちの脳裏に焼き付いています。ところが皮肉にも、この事件をきっかけに化石の真贋判定技術が進歩し、より核心に迫った自然考古学研究を行えるようになったという側面もあります。
世界各地で採取された標本、ダーウィンの直筆原稿、そしてピルトダウン人の化石。これらはすべて、現在開催中の大英自然史博物館展で公開されています。
開催期日は6月11日まで。なお、この特別展ではフラッシュを使わないという条件で、展示物の撮影が許可されています。この機会にぜひ、上野を訪れてみてはいかがでしょうか。
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名前 国立科学博物館
住所 東京都台東区上野公園 7-20
公式HP http://www.kahaku.go.jp/
大英自然史博物館特設サイト http://treasures2017.jp/