発酵食にふれると、その土地の風景が見えてくる。岐阜市で『発酵ツーリズム東海』展開催中
|旅先で、その土地の料理に出会ったとき。味の奥に、風土や暮らしの歴史が見えてくると、不思議と旅がもっと面白く感じられるものです。
いま岐阜市で開催されている『発酵ツーリズム東海』の展覧会は、そんな旅の醍醐味をじっくり味わえる特別な企画。
全国の発酵食を一堂に集めた展示では、味噌や醤油といったおなじみの調味料から、ちょっと聞き慣れない郷土の保存食まで、日本各地の「うまみの知恵」に出会うことができます。
展示の舞台は、岐阜市の複合文化施設「みんなの森 ぎふメディアコスモス」。発酵文化を“旅の入口”にして、五感で楽しむ体験が待っています。
会期は2025年7月13日(日)まで。
終了が迫る今だからこそ、夏の旅のきっかけに立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
●地図にない文化を旅する——「うまみの聖地巡礼展」
岐阜市で開催中の特別展『うまみの聖地巡礼展 ~岐阜会場特別展~』は、全国47都道府県の発酵文化と、東海地方ならではの発酵食をテーマにした展覧会です。発酵デザイナー・小倉ヒラクさんのキュレーションにより、五感で楽しむ展示空間が誕生しました。
会場に足を踏み入れると、まず出迎えてくれるのは日本列島をかたどった巨大な発酵地図。その先には、「発酵とは何か?」という問いかけとともに、47都道府県の発酵食がずらりと並びます。
展示の特徴は、なんといっても実物と臨場感。発酵中の食材の映像から、微かに聞こえる「ポコポコ…」という音、多くの実物展示、「くさや」の匂いを嗅げる仕掛けまで。文字通り、五感で発酵を体験することができます。
●地形が育んだ知恵のかたち
この展示のユニークな点は、発酵食を「地方名」や「ジャンル」で分けるのではなく、「海」「山」「島」「街」といった地形によって分類しているところにあります。
たとえば、「海」の発酵食は、限られた漁期に大量にとれる魚介を保存するために発達した技術がベース。塩や酢、麹を使って長期保存や旨味の引き出しを工夫してきた知恵が詰まっています。
「山」では、塩が貴重な環境ゆえに、植物の抗菌作用や乳酸菌を活用した保存食が生まれ、土地ごとの作物の違いがそのまま発酵の個性となっています。
「島」はさらに極端で、隔絶された環境で編み出された「せん」や「くさや」など、独自すぎる“ガラパゴス発酵”の宝庫。
こうした展示に触れることで、食が土地の歴史や暮らしと強く結びついていることが実感できます。
発酵食は、単なる郷土料理ではありません。その土地に生きる人々の工夫と知恵、そして暮らしの記憶そのものなのです。
●東海の“うまみ”は、にぎやかで奥深い
展示の後半では、「東海の発酵」をテーマに、東海三県の調味料や郷土食が紹介されています。
白醤油やみりん、たまり醤油、八丁味噌といった定番の発酵調味料に加え、岐阜・郡上地域の「味噌煮」や三重・伊賀の「養肝漬」、愛知・篠島の「じゅうじゅう味噌」など、地元の人でもなかなか知らない発酵食が多数登場。
展示空間は、うまみ神の巨大タペストリーや、本物の木桶を使った演出など、どこを見てもフォトジェニックで、まるで“うまみの神殿”のよう。調味料の裏にある歴史、たとえば戦国武将の好みが現在の味噌の地域差をつくったというエピソードなども紹介されており、歴史好きの方も楽しめる内容です。
●会場からまちへ——味の巡礼に出かけよう
この展覧会のもうひとつの魅力は、展示だけで終わらない点。100件近い体験が、東海地方各地で行われています。
岐阜会場からも、毎週末に出発する「発酵グルメまちあるき」ツアーが実施されています。イベント公式ガイドブックを買った人はなんと参加無料!
コースでは、岐阜の“発酵名店”を巡りながら、街の歴史と味の背景を紐解いていきます。
たとえば、冷やしたぬきそばで人気の店や、鮎魚醤を使ったフォーの専門店、伝統菓子と現代感覚を融合させた「山本佐太郎商店」など、グルメ通もうなる立ち寄りスポットばかり。展示で得た知識を、街での食体験でさらに深めることができるのです。
●発酵は、文化と未来をつなぐ“食の知恵”
展示を訪れた人のなかには、「もっといろんな土地の発酵食を知りたい」「次は旅先で味わってみたい」と感じる人も多いはず。発酵食を知れば、その土地の地形や歴史、文化まで味わえるからです。
しかも、発酵食品は保存性が高く、スーパーや道の駅でも買いやすいため、旅先での“おいしいお土産”にもぴったり。気に入った味を持ち帰って、自宅の食卓で旅の続きを楽しむのもおすすめです。会場の出口でも、展示に登場した発酵食品を購入できます。
そして今、この発酵文化を支える人々は、気候変動や後継者不足という厳しい現実に直面しています。『発酵ツーリズム東海』では、発酵文化を次世代につなぐためのクラウドファンディングも始まっています。私たち旅人ができる支援のかたちは、訪れて、知って、味わって、そして未来に残したいと願うことなのかもしれません。
●東海三県で巡る“うまみ”の旅はまだ続く
今回ご紹介した岐阜会場以外にも、愛知県半田市ではミツカンミュージアム内で「すしの千年を巡る旅」、そして半田赤レンガ建物で「ハントーフードハント知多」という2つの展示が行われています。
また、2か月にわたるイベント期間中には、東海三県各地で蔵開きやワークショップ、マルシェなどの多彩なプログラムが展開され、地域の食と人との新たな出会いが生まれています。
展覧会を入口に、その先に広がる体験へ——
この夏、東海の発酵文化を巡る旅に出てみてはいかがでしょうか。
最新情報やイベント風景は、公式Instagram(@tokaihakko)でも発信中です。
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●開催情報
イベント名:発酵ツーリズム東海「うまみの聖地巡礼展 ~岐阜会場特別展~」
期間:2025年5月17日(土)〜7月13日(日)
会場:みんなの森 ぎふメディアコスモス みんなのギャラリー
(岐阜県岐阜市司町40-5)
入場料:無料
公式サイト:https://tokaihakko.net