ヨーロッパでイスラムの風を感じる、コソボの歴史都市・プリズレンを訪ねて
|2008年に独立を宣言したバルカン半島の小国、コソボ。旧ユーゴスラビア時代にはセルビアの自治州のひとつであった、ヨーロッパで最も若い国です。
まだまだ観光客が少なく秘境的な雰囲気が漂うコソボですが、セルビアとの国境付近の北部の一部地域を除き治安も安定していて、外国人旅行者もしだいに増えつつあります。
そんなコソボきっての観光地が、南部の歴史都市・プリズレン。
過去にローマ帝国やセルビア王国、オスマン帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、ユーゴスラビアといったざまざまな勢力に支配されてきた歴史から、異文化や異民族が混在する町で、オスマン朝時代の建造物が数多く残るエキゾチックな町並みと、のんびりとした素朴な空気が魅力です。
プリズレンを象徴する風景といえば、なんといっても、アルバニア語で「ウラグリ」と呼ばれるオスマン朝時代の石橋のある景色。現在見られる石橋は、1979年の洪水で流された後、1982年に再建されたものです。
橋のたもとは、石橋と、緑に抱かれた旧市街や丘の上にそびえる城塞が一体となった美しい風景を眺めることができる、絶好のフォトスポット。
ここから見えるプリズレンを代表するモスクが、スィナン・パシャ・ジャーミア。旧市街の中心に建つプリズレンで最も美しいモスクで、イスラム教の礼拝の時間になると、多くの信者がやってきて祈りを捧げます。
礼拝中以外はイスラム教徒以外の入場も可能。ドームの内側に描かれたアラビア文字や植物をモチーフにした幾何学模様に目を奪われます。
プリズレン観光の目玉ともいえるのが、町の東にある丘の上にそびえる城塞。11世紀に築かれたもので、かつてはセルビア王国の都としての機能を果たしていたといいます。
プリズレンの町を一望できる最高のビュースポットとして人気を集めていて、現在アメリカ政府の援助を受けて修復作業が行われています。
眼下には、オスマン朝時代のモスクやハマム(トルコ式風呂)、セルビア正教の教会など、多彩な文化的背景をもつ歴史的建造物が組み合わさったユニークな風景が広がっています。
城塞までの坂道は、決して足場が良いとはいえないので、歩きやすく滑りにくい靴で出かけましょう。
実は、プリズレンには世界遺産もあります。それがレヴィシケ(リェヴィシャ)の正神女教会。
14世紀に建てられた後期ビザンチン様式のセルビア正教の教会で、オスマン朝時代にはモスクに転用され、20世紀はじめにセルビア正教の教会に戻ったという複雑な歴史をもつ教会です。
「コソボの中世建造物群」を構成する建造物として世界遺産に登録されていますが、2004年のコソボ暴動の際に焼き討ちに遭い、廃墟と化してしまいました。内部のフレスコ画も劣化が進行していて、痛々しい姿を見せています。
2017年8月現在、敷地内に入ることはできず、危機にさらされている世界遺産に指定されています。
この教会が焼き討ちに遭い、その後も修復されずにいるのは、コソボ国民の多くを占めるアルバニア人と、かつてこの地を支配していたセルビア人のあいだで現在も対立が続いていることと無関係ではありません。
日本を含め100ヵ国以上がコソボの独立を承認していますが、セルビアは今もコソボは自国の一部であるという認識を崩しておらず、「コソボの中世建造物群」もセルビアの世界遺産として登録されているのです。
歴史的な美しい町並みだけでなく、旧ユーゴスラビアが抱える民族・宗教問題を象徴するかのような光景にも出会うことで、「国家とは、民族とは」と考えさせられずにはいられません。
書籍などで旧ユーゴスラビアの歴史を学んでからプリズレンを訪れれば、単なる観光に終わらず、より印象深い学びの旅になることでしょう。
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