モロッコに残る世界遺産のポルトガル都市、アル・ジャディーダのメディナを散策

北アフリカの国・モロッコは国民のほとんどがイスラム教を信仰する国。街のあちこちにモスクが建ち、一日5回の礼拝の時間になるとモスクからアザーン(礼拝の呼びかけ)が流れます。

しかしそのモロッコに、世界遺産のポルトガル都市があることはあまり知られていません。

それが、カサブランカの西およそ90キロに位置する沿岸のリゾート地、アル・ジャディーダのメディナ(旧市街)。その独特の町並みは、オーソン・ウェルズ監督の映画「オセロ」のロケ地にも選ばれました。

16世紀、ポルトガル人がインド航路開拓のためにここに進出し、アル・ジャジーダは1502年から1769年までポルトガルの支配下に置かれていました。

当時「マザガン」と呼ばれたポルトガル人が築いたメディナは、モロッコに最後まで残ったポルトガル要塞。2004年には「アル・ジャディーダのポルトガル都市」として世界遺産に登録されました。

メディナを守る堅牢な城門をくぐると、一瞬にして数百年前からほとんど変わっていないであろう風景のなかに取り込まれます。

城門から続く町のメインストリートには、カフェや土産物屋が並び、色彩豊か。

アル・ジャディーダの代名詞となっているのが、メディナの中央付近にあるポルトガルの貯水槽です。ポルトガル人がこの地に都市を建設した際に造られた地下貯水槽で、最初は倉庫として使われていましたが、1542年に貯水槽に改造されました。

入口は驚くほど小さいですが、内部には巨大な地下世界が広がっています。シンプルな空間ながら、天井のヴォールトと円柱が描く美しい曲線が印象的。

天窓から雨水が流れ込む仕組みになっており、そこから差し込む自然光が造り上げる陰影が幻想的です。

大西洋に面したメディナの先端には見張り台があり、城壁に沿って散歩を楽しむことができます。

晴れた日の散歩は気分爽快。港町ってどうしてこんなに開放的なんでしょう。

見張り台周辺から眺めるメディナの風景も見事。ここから見ると、アル・ジャディーダのメディナが海に突き出たような要塞都市であることがよくわかります。

町を歩けば、かつてのキリスト教の教会をはじめ随所にポルトガル支配時代の面影を見つけることができます。

しかし、現在ここに暮らす人々のほとんどはイスラム教徒。礼拝の時間になると、やはりモスクからアザーンが流れます。ポルトガル人が残していった南欧的な建造物と、アラブ的な風景が同居するアル・ジャディーダの町には、どこか現実離れしたような不思議な空気が漂っています。

その一方で、アル・ジャディーダのポルトガル都市は、生きている世界遺産。現在も3000ほどの人々がここで日常生活を送っています。

モロッコのメディナというと「人とモノで溢れるカオスな場所」というイメージがありますが、アル・ジャディーダのメディナは時間が止まったかのように静か。ひっそりとした路地を歩いていると、本当にタイムスリップしたかのような感覚が味わえます。

およそ300メートル四方のごく小規模なメディナだけあって、「住民みなが知り合い」といったアットホームな雰囲気があり、ここに暮らす人々はみな親切でフレンドリー。強引な客引きもなく、心安らぐゆったりとしたひとときが過ごせます。

モロッコに今も残る世界遺産のポルトガル都市。一時間もあれば周れてしまうような小さな町ですが、その独特の風景と心地良い空気にきっとあなたも魅了されることでしょう。

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