【週末博物館紀行】東京で「憧れのミュシャ」を尋ねる
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プラハは、パリやウィーンと並ぶヨーロッパ域内の「芸術の都」です。
ですが、プラハ芸術の歴史はまさに苦難の道と表現するべきで、人々の血と涙の結晶が数々の美しい作品を生み出したと言っても過言ではありません。
この記事でご紹介するアルフォンス・ミュシャの絵画も、まさにチェコ人の独立を求める声が生み出した「民族団結の結晶」と言えるでしょう。
・チェコと宗教改革
現在のチェコ共和国は、1993年にスロバキア共和国と分離した「ビロード離婚」から始まります。
それ以前のチェコは、ある一時期を除いて常に周辺の大国に支配されてきました。「他国に支配される」ということは、自分たちの固有の言語を公の場で使ってはいけないということです。それだけではなく、生まれた時から慣れ親しんできた文化や慣習が外国人に否定されてしまいます。これ以上の理不尽はありません。
その中でチェコの人々が拠り所にしたのは、宗教改革者ヤン・フスの教えです。
中世ヨーロッパのキリスト教は、カトリックと東方正教会しかありませんでした。とくにカトリックは西欧から中欧にかけての地域で絶対的な権力を握っていました。ですが14世紀から15世紀にかけて、「カトリックの教義はおかしい」という声が聖職者から相次ぎます。
フスは当時カトリックが配布していた「免罪符」に抗議しました。教会にお金を出せばすべての罪が許される、というものです。すると結局は「金持ちしか天国に行けない」ということになってしまいます。
「神はどのような人に対しても平等に接してくださるはずだ!」
フスはそう声を上げ、同時に独自の宗派を作りました。ですが当然、カトリックがそれを許すはずがありません。宗教裁判の末、フスは火刑に処せられます。
その際、フスはこう言ったそうです。
「Pravda vítězí(真実は勝利する)」
この言葉は、今のチェコ共和国の標語になっています。そしてミュシャの作品も、フスの最期の言葉を土台に制作されました。
・アール・ヌーヴォーの「役割」
ところでミュシャと言えば、やはり「アール・ヌーヴォーの第一人者」という印象があります。
アール・ヌーヴォー作品の特徴をひとことで表すとしたら、「曲線の組み合わせ」です。まるで植物のツタが交差したような作風、そして女性的な印象が作品の中にあります。
アール・ヌーヴォーは「退廃的な美術思想」として異端視されてきた時代が長く続きましたが、現代の広告アートに絶大な影響をもたらしていることもまた事実。何しろミュシャのアール・ヌーヴォー絵画は、お芝居や商品の広告のために描かれたものですから。
美術における「退廃的」は決してマイナスポイントではなく、むしろ近世から近代に向けて飛躍する世界を見事に映し出したとも言えます。
そして、ミュシャの作品を始めとするアール・ヌーヴォーはハイブリッドなものでもあります。日本を含めた世界各国の作風を取り入れて成立した様式です。それ故に、ドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーから攻撃を受けてしまったこともありましたが、「文化の国際融合」を促進させたという点でもアール・ヌーヴォーは高評価するべき美術運動なのです。
・対話と独立
話はチェコの独立闘争に戻ります。
この国が旧ソ連の衛星国から脱却し、本当の独立国として成立した「ビロード革命」の際、世界はその平和的手法を絶賛しました。また、その後のスロバキアとの分離の際も、武力衝突は一切発生していません。
チェコの民族運動は、「流血を避ける」ということが大前提。ミュシャの作品にも、戦いによって人が血を流す場面はありません。
異民族との対話により、独立と平和を確保する。ミュシャの作品には、その精神がふんだんに詰め込まれています。
ミュシャ展は東京・国立新美術館にて6月5日までの開催予定です。
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