独特の世界、コペンハーゲンにあるヒッピーの楽園「クリスチャニア」に潜入してみた

デンマークの首都コペンハーゲンに、「ヒッピーの楽園」と呼ばれる場所があるのをご存じでしょうか。

それが、1971年に誕生したヒッピーたちの自治コミュニティ「クリスチャニア」。日本ではあまり知られていませんが、ヨーロッパでは超有名な存在で、なんと年間50万人もの観光客が訪れるといいます。

地下鉄のクリスチャンハウン駅から歩くことおよそ10分。整然としたコペンハーゲンの街で、突如としてヒンドゥー教の神々などが描かれたカラフルな壁画が目に飛び込んできます。この先がクリスチャニアです。

敷地内に入ると空気が一変。コペンハーゲンの他のエリアとはまったく異なる、独特のディープな雰囲気が漂います。

もともと軍用地だったというこの場所。当初は少数のホームレスが不法侵入している程度でしたが、1971年に近所の人々が子どもたちの遊び場にするためにフェンスを壊し、さらにジャーナリストのヤコブ・ルドヴィクセンの手によってクリスチャニアは一般に開放されました。

こうして、自由を愛するヒッピーたちのコミュニティが誕生したのです。現在、面積およそ34ヘクタールの敷地に、1000ほどの建物が並び、850人ほどの住民がここで生活を営んでいます。

強力な自治権をもち、独自の国旗や国歌までが制定されているクリスチャニアでは、住民たちは独自のルールを守って共存しています。そのルールとは、「暴力禁止」「武器の持ち込み禁止」「車の乗り入れ禁止」「ハードドラッグ禁止」など9項目。

2004年までは、「Pusher Street 」と呼ばれる有名な通りで、大麻が常設屋台で公然と売り買いされていたといいます。そうした商売は現在も完全になくなったわけではなく、筆者が訪れた際も、たくさんの「葉っぱ」が売り買いされていて、喫煙者からは、タバコとは違う独特の煙の臭いが漂っていました。

1971年にクリスチャニアが誕生した当時、デンマーク政府は「社会的実験」としてこのコミュニティを認めていましたが、一時は両者が激しい対立を繰り広げたこともありました。現在は、一定の制限や監視のもとにこの特殊なコミュニティが存続しています。

クリスチャニアを歩くと目に飛び込んでくるのが、さまざまなストリートアート。ここでは落書きは自由で、クリエイティブなアートや、ヒッピー精神を表したアートがあちこちに散りばめられています。

壁一面がさまざまなグラフィックで覆われた建物の手前には、ヒッピーが愛するチベット仏教の5色旗がはためき、カオスな光景をつくり上げています。

広場では、クリスチャニアのオリジナルグッズや、タイやインドなどで売られているようなエスニック雑貨、さまざまな喫煙具などが売られていて、かなりマニアック。ここがデンマークであることをすっかり忘れてしまいそうになります。

ネパールで見られるような仏塔や、廃材を利用した「普通」の人には意味不明なオブジェの数々も。ここの住民たちは、自分たちが「普通でないこと」を主張し、それを楽しんでいるように見えます。

人々の暮らしはオープンで、家の中が丸見えでもまったく気にする様子はありません。ヨーロッパの先進国というよりも、アジアの発展途上国を彷彿とさせる光景です。

一見がらくたにしか見えないようなものを大切にしている人も多く、独特の文化が根付いているのを感じます。

クリスチャニアの人々は、自分で作れるものは自分で作る、再利用できるものは再利用する主義。通りには、住民たちが不用品を交換できるスペースも設けられています。

クリスチャニアは、ある意味で、普通であること、常識的であることを放棄した人々が、独自の価値観に誇りをもって暮らしている場所といえるでしょう。

移民やその子孫と見られる人々の割合も多かったことから、デンマークの一般社会に馴染めない人々の心の拠り所になっているのではないかという印象を受けました。

クリスチャニアに出入りできる場所はいくつかありますが、面白いのは「クリスチャニア」と書かれている正面ゲートの裏側には「ここから先はEU」と書かれていること。

「デンマークがEU加盟国でも、自分たちはそのなかに取り込まれないぞ!」という「クリスチャニア人」のプライドを感じますね。

規律正しい印象のデンマークのイメージとは正反対といってもいいほど、まったくの別世界が広がるクリスチャニア。面白いのは、こうしたコミュニティの存在を容認している政府や一般の人々の存在です。

果たして、日本でこうしたコミュニティが社会的に認められるでしょうか?こんな世界が存在していられるのも、もともとデンマークに自由を重んじる気風があったからこそなのかもしれません。

クリスチャニアは特別危険な場所というわけではありませんが、お世辞にも雰囲気がいいとはいえない場所もあるので、日中の明るいうちに訪れるのがおすすめ。ガイドツアーも実施されているので、不安な方はガイドツアーに参加するといいでしょう。

あまりにも独特な世界が広がるクリスチャニア・・・一度行くと、きっと忘れられなくなるに違いありません。

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