「フランダースの犬」の舞台、ベルギーの世界遺産「アントワープ聖母大聖堂」の魅力

ベルギー北東部の商業都市、アントワープ。ベルギーに行ったことがなくても、一度はその名を耳にしたことがある人は多いことでしょう。

そう、ここは「フランダースの犬」に登場したアントワープ聖母大聖堂がある町。

大聖堂内部には、今もネロが「一度は見たい」と願ったルーベンスの傑作が飾られています。美術館顔負けの絵画コレクションを誇るアントワープのシンボル、聖母大聖堂に会いに行きましょう。

・フランダースの犬の舞台は世界遺産

アントワープを象徴する聖母大聖堂は、ベルギー最大のゴシック教会。「ベルギーとフランスの鐘楼群」の一部として、世界遺産に登録されています。その名の通り町の守護聖人である聖母マリアに捧げられた聖堂で、1351年に着工。およそ170年をかけて完成しました。

ゴシック様式の大聖堂といえば、左右対称の尖塔が天に向かって誇らしく伸びているというイメージかもしれません。ところが、アントワープ聖母大聖堂の塔は1本のみ・・・実は、もともと複数の塔を建設する予定でしたが、火事が原因で資金不足に陥ったため、計画変更を余儀なくされたのです。

とはいえ、高さ123メートルを誇る塔は貫録十分。塔が1本しかないアシンメトリーな姿はむしろ新鮮で、そのアンバランスさがかえって見る者を惹きつけるといってもいいかもしれません。

・ネロが憧れたルーベンスの傑作

大聖堂としての建築の素晴らしさもさることながら、アントワープ聖母大聖堂をさらに有名にしているのが、ルーベンスの傑作の存在です。

大聖堂は「キリスト降架」「キリスト昇架」「キリストの復活」「マリア被昇天」という、美術館も顔負けのルーベンスコレクションを誇り、「フランダースの犬」に登場する少年ネロは、「キリスト降架」を一度は見たいと願っていました。

かつては、「キリスト降架」と「キリスト昇架」は分厚いカーテンで覆われており、銀貨を払った人だけが見ることを許されていました。もちろん、貧しいネロは銀貨を払うことなどできません。

「きっとルーベンスは、貧しい人に絵を見せたくないなんて思わなかったはずなのに」というネロの発言には、「フランダースの犬」の原作者ウィーダによるそうしたシステムへの批判が込められていました。

・「マリア被昇天」

ネロが毎日のように眺めていたのが、主祭壇に飾られている「マリア被昇天」。聖母マリアが、天使たちに囲まれて天に召される場面が描かれています。

生々しさが漂う「キリスト昇架」「キリスト降架」に比べ、この作品には幻想的な空気が強く漂い、聖母マリアの優しさや清らかさが強調されているように感じられます。

ネロはこの慈愛に満ちた聖母マリアの姿に、まだ見ぬ母の面影を重ねていました。

アニメ「フランダースの犬」の最終回では、この絵から天使たちが降りてきて、ネロとパトラッシュを天へと連れていきます。この場面を思い出しただけで胸がつまるという人は、少なくないことでしょう。

・「キリスト昇架」「キリスト降架」

アントワープ聖母大聖堂が抱えるルーベンス作品のなかでも、特筆すべきが「キリスト昇架」「キリスト降架」。

主祭壇の左右に配置された大作で、それぞれキリストが今にも磔刑に処せられようとしている場面と、処刑後にキリストが十字から降ろされる場面が描かれています。

「キリスト降架」は、当時のアントワープ市長だったロコックスの依頼で描かれたものですが、「キリスト昇架」はもともと別の教会の祭壇画として描かれたもの。現在のアントワープ聖母大聖堂では、それらを一対の作品のように一緒に見ることができるのです。

キリストにスポットライトが当たっているかのような光の効果、劇的な一瞬を切り取った動きのある構図は、生々しいほどのリアリティを呼び起こします。

とりわけ土気色をして血を流すキリストの遺骸が十字架から降ろされる「キリスト降架」は、思わず鳥肌が立ってしまうほどの迫力。必ずしもポジティブな印象を与える絵ではないのに、それでも見ずにはいられないのです。

アニメ「フランダースの犬」の最後、ようやく「キリスト降架」を目にしたネロは、こう言います。―「ああとうとう見たんだ」 「ああマリアさま、僕はもう思い残すことはありません」

それぞれの絵画の前には、詳しい解説(日本語あり)も用意されています。アントワープにやってきたら、ネロが憧れ続けたルーベンスの傑作をじっくりと堪能してください。

・大聖堂前のネロとパトラッシュ像

大聖堂の前には、2016年にお目見えしたネロとパトラッシュの像があります。デザインを手がけたのは、ゲント在住のアーティスト、バティスト・フェルムーレンさん。

日本で放映されたアニメに登場する彼らとはイメージが異なるものの、幸せそうに眠っているかのようなネロとパトラッシュの姿が目を引きます。

「フランダースの犬」を見たことがある人は、悲しい物語の結末を思い出し、「せめて天国では幸せであって!」と願わずにはいられないかもしれません。

・「フランダースの犬」を有名にしたのは日本人!?

日本では、知らない人はいないといっても過言ではないほど有名な「フランダースの犬」ですが、実は現地ではさほど有名ではありませんでした。

「フランダースの犬」の原作者は、イギリス人女性ウィーダ。

そのため、ベルギーでは出版されていなかったという事情に加え、物語の結末が悲しすぎるために、ベルギーではあまり好まれなかったのです。

ところが、アントワープを訪れる日本人観光客がこぞって「フランダースの犬」について口にし、ネロの家がどこにあるのか知りたがったために、観光案内所はじめアントワープの人々も「フランダースの犬」について調べるようになり、その存在が知られるところとなりました。

「フランダースの犬」詣でをする日本人観光客の存在がなければ、大聖堂前にネロとパトラッシュの像が設けられることはなかったかもしれせん。

アントワープはブリュッセルから列車で約40~50分と、日帰りも十分可能。

ベルギーを訪れたら、「フランダースの犬」の舞台であり、世界遺産でもあるアントワープ聖母大聖堂に足を運んでみてはいかがでしょうか。

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