ライオン、本、天使像…美しい墓石が並ぶヴィクトリアン霊園はロンドン市民の憩いの場
|ヴィクトリア女王の統治下、産業革命に沸いた1837年~1901年のヴィクトリア朝時代のロンドンは、人口の爆発的な増加による様々な問題に直面していました。
ロンドンにおける当時の平均寿命は30歳で、階級別に見ると上流階級では45歳、劣悪な労働環境と住環境に加え、児童労働も当たり前であった労働者階級に至ってはわずか22歳という若さでした(※1842年Chadwick調査に基づく)。
そしてコレラなどの伝染病の流行によりさらに死者が増加、当然、足りなくなって困ったのが墓地。そこで、1832年からの10年の間にロンドン市内に7つの大きな霊園が造られました。「マグ二フィセント・セブン(Magnificent Seven、壮大な七つ(の霊園))」と呼ばれたそれらの霊園は、現在もロンドン市内に残されています。
現在それらの霊園の中には、入場料を課して観光地化しているものなどもありますが、今回は入場無料で市民の憩いの場となっている「アブニー・パーク(Abney Park)」をご紹介しましょう。
アブニー・パークが位置するのはロンドン北東部の「ストーク・ニューイントン(Stoke Newington)」。ユダヤ系をはじめとする移民が多いこの街は、ここ数年アーティストや若いファミリー層にも人気で、ヴィンテージ・ショップやカフェが増え続け、オシャレで文化的な街へと進化を続けています。
旅行者でもロンドン中心部から鉄道やバスで訪れやすく、「オーバーグラウンド(Overground、地上を走る鉄道)」のストーク・ニューイントン駅から賑やかな駅前通りを歩くことわずか2分。
地元の人たちが犬の散歩をしていたり、ベンチで読書をしていたりと、気軽に足を踏み入れやすいのも魅力。
廃墟ファンにもお勧めしたい雰囲気満点のこの霊園は、2011年に27歳で急逝したイギリスの歌姫エイミー・ワインハウス(Amy Winehouse)の「バック・トゥ・ブラック(Back to Black)」ミュージック・ビデオ、BBCの人気テレビ・ドラマシリーズ「ウォーキング・ザ・デッド(Waking the Dead)」など、数々のミュージック・ビデオやテレビ・ドラマのロケ地として使用されています。
入り口を入ると、小さな売店とビジター・センターがあります。
売店では地図や写真、ライオンの墓石をデザインしたユニークなTシャツなどのオリジナル・グッズが並びます。
ヴィクトリア時代の霊園に共通するのは、シンプルな形の石版だけでなく、様々な形の墓石の数々。それぞれの彫刻には意味があり、古木の合間に立つ苔むす天使像や、ツタの絡まる崩れかけの墓石は、儚げな美しさを放っています。
宗教を問わない霊園として1840年に開園したアブニー・パークでも、キリスト教のシンボルをはじめとする様々な墓石が見られます。
・アブニー・パークのマスコット・キャラクター?
売店で売られているTシャツに描かれているライオンの墓石の下に眠るのは、主にサーカスの猛獣トレーナーとして活躍し、1912年に没したフランク C. ボストックとその妻。
真っ白な大理石で出来た威厳漂うライオン像は、目をつぶり、静かに眠っています。ホコリや苔で汚れると、繰り返し綺麗に磨かれているようです。
・天使(Angel)
少しうつむき、目を伏せた悲しげな表情の天使像が多く見られます。
天使は神と人間の間を行き交うメッセンジャー。
・骨つぼ(Urn)
通常の墓石の次にたくさん建てられていそうなのがつぼの墓石。つぼはまさに『死』を意味しています。
つぼに半分かけられた布は、『生と死を分かつもの』などの意味があるそうです。
・イカリと鎖(Anchor and Chain)
『救いに対する確固たる信仰』のシンボル。
・殉職した警官の墓石
たたまれた警官の制服とヘルメットの墓石は、1909年、勤務中に殉職した警官のもの。
個人を偲び、立派な墓が建てられたのででしょう。
・握り締められた手(Clasped hands)
『さようなら、また会いましょう』、再会の願いが込められています。
・上または下を指差す手(finger pointing up or down)
上を指差す手は『天国への希望』を意味し、下を指差す手は『死者の魂に近寄る神の手』または『不慮の死』を意味することもあるそうです。
・様々な植物
ユリの花は『純潔』、冬でも枯れることのない常緑のアイビーは『思いでは褪せない』、柳は『悲嘆、哀悼』、バラは『善良と純粋』など、彫られた植物にもそれぞれ意味が込められています。
・本(Book)
聖書もよく見られるシンボルです。
・鳥(Bird)
異なる種類の鳥の彫刻が見られますが、代表的なのが鳩。手紙を運んでいるもの、使者の精神と共に天へと舞い上がっているものなど、異なる姿形/シンボルの鳥が彫られています。
・都会のオアシス
賑やかな街中にありながら、一歩足を踏み入れると、静寂と深い緑が広がり、広すぎず、狭すぎず散策に丁度良いアブニー・パーク。ロンドン旅行で雑踏に疲れを感じたら、都会に広がる異空間に足を伸ばしてみては?
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Abney Park
Stoke Newington High Street,
London N16 0LH
開園時間:午前8時~(閉園時間は時季により異なる)