世界最北と言われた、ノルウェー・トロムセーのマイクロブリュワリーにまつわる、驚きのエピソードとは?


ノルウェー北部、最大の都市トロムセー(Tromsø)。

北極圏から300km北に位置しながらも、メキシコ湾流(暖流)の影響で気候は穏やかな場所です。夏は白夜、冬はオーロラと、日本では味わえない大自然での体験が出来る場所です。


北欧は物価が高いことで有名ですが、大自然が織りなすマジックを一目見たくて、この地を訪れる人々は後を絶ちません。

実際ノルウェーの物価は、日本の物価のほぼ2倍。

お土産を買うにも、食べ物を買うにも、思いとどまってしまう程です。

しかし日本を遠く離れて、遥々この地まで来たのなら、現地のグルメも味わいたいもの。魚介類、トナカイ、ヘラジカ、クジラなど珍しいものに出会えるでしょう。

そんな中でもお酒好きにおすすめしたいのが、マックビール醸造所。

この醸造所の運営するビアホールが街にあり、60-70種類ものクラフトビールを楽しむ事が出来ます。お値段は0.17リットル、500円〜。

価格は高いけれども深みのある美味しいビールを飲みながら、ビアホール内を見回すと創業当時の写真があちこちに見られます。

ビアホールのホームページにも創業から現在までの歴史が掲載されています。(なんと日本語版もあります)

実はこのマックビールとビアホールが出来たのには、日本人の想像を超えるような北欧特有の事情がありました。

今回はそのエピソードをご紹介したいと思います。

・ 19世紀のトロムセー飲酒事情

このビアホールの創業以前、トロムセーでは飲酒の問題が多発していました。

原因は、質の悪いアルコールの常飲。

アルコールになんと、ヘアートニックや飲料用ではない薬品を混ぜて、アルコール分を高めて飲んでいる人々が沢山いました。もちろん、そういった粗悪なアルコールは悪酔い、アルコール中毒などの状況を巻き起こし、治安の悪化が進んでしまいます。

・ 冬と太陽とお酒の関係
なぜそこまでしてアルコールを飲んでいたかというと、冬が暗すぎるから。

暗すぎる環境のため、人々は気分を紛らわしてくれるお酒が手放せなかったのです。

北極圏では冬場の暗い時間が長すぎるため、人々は鬱の傾向になりがちです。

暗すぎるといっても日本では想像できないかもしれません。

実に冬の4ヶ月間、1日の3/4が暗闇で、そのうちの2ヶ月は太陽が地平線から顔を出さないという環境、日本人では想像できない環境ではないでしょうか。

実は太陽光は人の体内に、疲れから回復する栄養素を作る元となっています。

例えばビタミンD。これが欠乏する事でより疲れを感じやすくなります。それが冬になると自然に摂り入れるのが困難になるという、北極圏特有の厳しい環境には驚きが隠せません。

きっと、世界のどこよりも気晴らしが必要なのが、北極圏の冬なのです。

・ 世界最北!マックビール醸造所の誕生
このような理由で、人々の飲酒問題が深刻化していました。

この状況を見兼ねたドイツ出身のルードヴィグ・マックが作り上げたのがマックビール醸造所。

健康的で、本当に美味しいビールを町の人たちが喜んでくれることを彼は確信していました。

そして巨額の投資を行い、1877年マックビール創業開始。醸造所はルードヴィグの予想を遥かに超える大人気となりました。

その後、数種類のビールと共に、ソフトドリンクやミネラルウォーターも合わせて販売していくようになります。

また、世界最北ということもあり、醸造所は首都オスローまで徐々に評判は広まっていきました。

・ ビアホールが始動

さて、質の良い美味いビールが出来たものの、それでも悪質なアルコール飲酒、アルコール中毒の問題は完全には解決しませんでした。

そこで2代目社長のラウリッツ・ブレドループが考えたのが大衆酒場を作ること。

行き届いた管理の元でお酒を飲む場所ができれば、飲酒問題がどれだけ解決するか、彼には自信がありました。

しかし当時、大衆酒場は町議会の許可が必要で、議員のほとんどが絶対禁酒主義だったため簡単には行きませんでした。

その後、2代目社長ラウリッツは苦労の末、1928年マック・ビアホールは開店しました。

開店当初の店内は海の男たちが集い、タバコに、魚の匂いでひどい場所でしたが、その後、様々な改善を行い、現在のように上品な場所へと生まれ変わっていきました。

・ ビアホールのユニークな仕組み
そんな開店当時の名残が、入店時の店員からのチェックでした。酒にすでに酔っていないか、未成年でないか、以前問題を起こしていないか。

厳しいチェックを通過したお客がビアホールに入ることを許されました。

問題を起こし、入店拒否を突きつけられたお客は、決められた期間ビアホールに入れませんでした。それはまるで「世間からのけ者にされたようなもの」と体験者は語ります。

店員の記憶力は驚くべきことに、追い出された客がどんなに外見を変えようとも見抜く程だったと言います。それだけ管理の行き届いたビアホールでした。

さて、当時女性はというと、入店禁止でした。ビアホールは男性が妻たちから逃げるための場所でもあったのです。しかし徐々に女性の入店が認められ、男性のみの時代よりも、客足は格段に伸びたそうです。

・ 約130年にも及ぶ歴史から、現在へ
現在ビアホールは、観光客でも気軽に入れるようになりましたが、もちろんいまでもなお地元民からも愛される場所です。

実は2012年、醸造所は場所を移したため、世界最北ではなくなってしまいました。

しかし約130年間その地位を維持し、昔と変わらず街の人たちに喜んでもらえるビールを提供し続けています。
*世界最北は2015年よりスヴァールバル・ブリューワリーとなりました。

このような、日本では想像もつかないエピソードを持ったマイクロブリュワリー。

もしトロムセーを訪れた際には立ち寄ってみてはいかがでしょうか?

お店 アルハレン (ØLHALLEN) *ビアホールという意味
住所 Storgata 4, 9008 Tromsø, Norway
営業時間 月〜水 10:00-19:30 / 10:30-00:30

ブリューワリーツアー:
月〜金 15:30マックショップにてスタート
170クローネ、約1時間ブリューワリーについての映像と、テイスティングがメイン。

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