浅草路地裏の隠れた名店。永井荷風が愛した洋食屋「アリゾナキッチン」

浅草の路地裏、大通りの喧噪をよそに佇む一軒の老舗洋食店があります。

お店の名前はアリゾナキッチン。

看板にもあるとおり、永井荷風に愛された洋食屋、それがアリゾナキッチンです。
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永井荷風をご存じない方の為に、簡単なご紹介をしておきます。

永井荷風は明治、大正、昭和と3つの時代にわたって活躍した文豪。

教育者として谷崎潤一郎の才能を見いだしたり、慶応大学教授として多くの人材を育て上げたという華々しい経歴がある一方で、遊女をこよなく愛し、二度の離婚を経て私生活に破綻をきたし、最終的に独身で死をむかえたことから、「稀代の変人作家」と評されることも多い人物です。

そんな永井荷風は浅草や向島の歓楽街と深い繋がりがあり、浅草界隈を舞台にした小説を数多く残しています。

彼の号である断腸亭主人(だんちょうていしゅじん)を使った、日記文学の最高峰とも言われる彼の代表作の一つ「断腸亭日乗(だんちょうていにちじょう)」でも、浅草の街はよく描かれており、実はここ「アリゾナキッチン」も作中に登場しています。

今回は、そんな「稀代の変人作家」と言われた永井荷風が愛した洋食屋「アリゾナキッチン」をご紹介します。

・永井荷風が10年間通い続けた店
アリゾナキッチンの創業は1949年(昭和24年)。敗戦4年後の日本はまだまだ混乱しており、一般市民は配給制と闇市とで、非常に貧しい生活をしている時代でした。そんな時代に永井荷風は自身が亡くなる昭和34年までの10年間、市川の自宅から毎晩のようにこちらのお店にタクシーで通い続けていたそうです。

・永井荷風お気に入りのメニュー「チキンレバークレオール」
そんな永井荷風のお気に入りだった料理がこちらのお店の「チキンレバークレオール」。

あまり聞き慣れない名前ですが、鶏肉と鶏のレバーを玉ねぎと一緒にトマトソースで煮込んだもので、ハッシュドビーフに近い味付けの料理。

当時の世相とは隔絶していると思えるほど豪華なこの料理は、エリートとしてアメリカやフランスで20代を過ごした荷風にとっては、もしかしたら懐かしいと思えるほど、かつての華やかな自分自身を思い起こさせる、そんな味だったのかも知れません。

現代の私たちが味わってみても、その味わいは絶品。一週間じっくりと煮込んだ鶏肉は、ソースと鶏肉本来の旨味が凝縮され、非常に濃厚な味わい。

また、レバーのもつ独特な臭みはまったくなく、むしろレバーのもつ独特の苦みや味わいが、料理全体にコクやアクセントを加えている事が分かります。

・数多くの著名人が愛する店
実は、こちらのお店、永井荷風以外にも著名人にこよなく愛されている洋食店。店内にフィギュアも飾ってある、初代タイガーマスクの佐山聡さんや、浅草からほど近い場所を舞台にしたボクシング漫画「あしたのジョー」の作画担当ちばてつやさん、さらには「丸出だめ夫」の森田拳次さんなど、ジャンルにとらわれない著名人に愛されている事が分かります。

アリゾナキッチンという名前の通り、アリゾナを彷彿とさせるウエスタンな雰囲気の店内、そんな店内の窓際の席が永井荷風のお気に入りだったそうです。

永井荷風が見た、その当時の日本はどんな景色だったのでしょうか。

そして、もしも永井荷風が現代に生きていたとしたら、戦後のどん底のような貧困が無くなった今の日本はどのようにみえるのでしょうか。

どんなに時代が変わっても、どんなに景色が変わっても、アリゾナキッチンの料理は、今も昔も、そしてこれからも、変わらない味わいで、食べる人々に歴史を伝えていくのかもしれません。

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お店   アリゾナ キッチン
住所   東京都台東区浅草1-34-2
営業時間 11:30~14:30 17:00~22:00
定休日  月曜日(祝日の場合は営業)








この記事のお店・スポットの情報

お店・スポット名 : アリゾナ キッチン

住所 : 東京都台東区浅草1-34-2