世界遺産の修道院からはじまった東スイスの中心都市、ザンクト・ガレンを歩く
|チューリヒから列車で東へおよそ1時間。ザンクト・ガレン州の州都で東スイス地方の中心都市が、ザンクト・ガレンです。
州都だけあって近代的で、スイスとしては大きな街でありながら、古い建造物を上手に残した歴史的な街並みが印象的。中世の面影が残る旧市街を歩けば、古き良き伝統を大切にするスイスの精神を感じることができるでしょう。
ザンクト・ガレンのシンボルが、世界遺産に登録されているザンクト・ガレン修道院。
その歴史は、アイルランドから伝道にやってきた修道院ガルスが612年に建てた小さな僧院にはじまります。720年にその跡地に建てられた修道院は聖ガルスにちなんで「ザンクト・ガレン」と名付けられ、それがそのまま街の名前になりました。
8世紀から10世紀にかけては中世ヨーロッパの学芸の中心地として繁栄を極め、諸王たちも訪れるほど富と権力が集中する豊かな修道院としてその名をとどろかせていました。
現在は修道院としての機能はなくなっていますが、10万冊以上の蔵書を誇るロココ様式の付属図書館は、その美しさと貴重な蔵書からあまりにも有名。
1755~1767年に建てられたバロック建築の傑作といわれる大聖堂も、当時の繁栄ぶりを物語っています。
優雅かつ重厚な天井のフレスコ画、その細やかさに目を見張るツタのような装飾、精巧な彫刻で彩られた豪華な聖歌隊席・・・
これらが一体となった空間の美しさと荘厳さは格別。装飾性の高いバロック様式の教会のなかでも、内陣の祭壇がこれほど細やかな装飾で覆われているものはそう多くはありません。
修道院の周辺には、古き良き趣が残る旧市街が広がっています。
ザンクト・ガレンは古くから繊維産業が発展してきた街としても有名。8世紀にはすでに麻・亜麻織物産業が始まり、遠隔地貿易が始まった12世紀初頭に街の発展を支える本格的な産業として花開きました。
スイスとドイツの国境をなすボーデン湖にも近いザンクト・ガレンは運送ルートにも恵まれていたため、17世紀から19世紀にかけては各地から貿易商が集まり、街は大いに賑わっていたのです。
旧市街を歩けば、豪華な装飾が施された出窓をもつ家が多いことに気付くでしょう。建物の外に張り出した出窓は「ベイ・バルコニー」と呼ばれ、ザンクト・ガレンの街には今も111のベイ・バルコニーが残っているといいます。
こうした出窓を設けることができたのは、豊かなザンクト・ガレン商人のなかでも特に裕福だった人々。出窓にはエキゾチックな動植物がデザインされていることが多く、それらは家主である商人が世界各地でさまざまな珍しいものを見てきたことを表しています。
また、舌を出す人物には自らの豊かさを誇示する意味合いがあるとか。ザンクト・ガレンの旧市街を歩く際は、かつての富の象徴だった出窓のデザインにもご注目を。
それとあわせて、繊維の街ザンクト・ガレンを象徴するテキスタイル博物館も必見。14世紀の刺繍や16世紀のレースといった貴重な品々を含むおよそ3万点のコレクションが見事です。
近代都市としての顔と歴史都市としての顔をあわせもつザンクト・ガレン。1400年前に小さな僧院からはじまったこの街は、世界遺産の修道院を中心に、今も厳かに時を刻み続けています。
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