【ドイツ】モダニズムの原点バウハウスが生まれた世界遺産の街ワイマールを訪ねて

ドイツ中部、テューリンゲン州に位置するワイマール(ヴァイマール)は、ドイツを代表する文豪ゲーテや、詩人であり劇作家のシラーといった数多くの偉人を輩出した歴史を持つ小さな文化都市です。世界史で習ったワイマール憲法やワイマール共和国などを思い出す方もいるでしょう。

18世紀後半から19世紀初頭にかけての知的中心地としての傑出した役割を理由に、ゲーテ・ハウスやシラー・ハウス、アンナ・アマリア侯爵夫人図書館など11の名所が「古典主義の都ワイマール」としてユネスコ世界遺産に認定されています。

ワイマールの中心、劇場広場に建つドイツ国民劇場と、その前に立つゲーテとシラーの記念碑は、街を象徴する風景のひとつです。1857年に設置された二人の像は、ドイツ文学の黄金時代を築いた“詩人の双璧”として、今も多くの人々を惹きつけています。

そんなワイマールには、もうひとつ別の世界遺産があります。それが「ワイマール、デッサウ及びベルナウのバウハウスとその関連遺産群」です。

建築やデザイン、美術を学んだことのある人であれば、建築とデザインを主とした総合造形学校「バウハウス(Bauhaus)」の名前を聞いたことがあるでしょう。

バウハウスは、1919年、建築家のヴァルター・グロピウスによってワイマールに設立されました。第一次世界大戦を経験したドイツでは、膨大な費用と時間のかかる従来のやり方に替わる、新たな建築が求められ、そんな時代のうねりのなかで生まれたのがバウハウスでした。

グロピウスは、ワイマール共和国による新しい政治の始まりとともに、アートやデザイン、建築においても新しい時代が始まったと説きました。既成概念を捨て、ゼロから新しい時代のためのデザインを起こすことを求めたのです。そして、高価な石材のかわりにコンクリートやモルタルなどの機能的かつ安価で、大量生産に適した資材を取り入れつつ、装飾でごまかすのではなく、優れたデザインによって建築の質を維持しようと考えました。

バウハウスには、オスカー・シュレンマーやパウル・クレー、カンディンスキーといった当時の先端的な芸術家たちが教授として招かれ、建築だけでなく、陶芸や絵画、彫刻、テキスタイルなどの造形教育が行われました。そして、「すべての造形活動の最終目標は建築である」という理念のもと、家具や印刷、舞台装置といったインダストリアルデザインにまで発展したのです。なお、ワイマールでは、日本人芸術家の仲田定之助や水谷武彦らも学び、その思想を日本へと伝えています。

その後、バウハウスは、ワイマール共和国の経済的・政治的な混乱によって閉鎖を余儀なくされ、デッサウ、ベルリンへと拠点を移しましたが、1933年にナチス・ドイツの芸術活動への弾圧により完全閉校に追い込まれました。学校として存在したのはわずか14年ですが、ここで生まれた革新的な思想やシンプルかつ機能的なデザインが、20世紀の芸術や建築に与えた影響は計り知れません。

私たちが普段目にしている建物や、何気なく使っている家具・工業製品などもバウハウスの影響を受けたものかもしれません。「バウハウス」とは単に総合造形学校の名にとどまらず、その流れをくむ合理主義的・機能主義的な芸術や理念全体を表す言葉といえるでしょう。

バウハウス博物館ワイマール

バウハウス博物館ワイマール(Bauhaus Museum Weimar)はバウハウス発祥の地に建つ博物館です。ドイツ人建築家、ハイケ・ハナダ(Heike Hanada)により設計され、2019年4月にバウハウス生誕100年を記念してオープンしました。

この博物館では、バウハウスが誕生する過程やそこで行われていた授業や実験、舞台、そしてグロピウスら校長による革新的なデザインや思想、ナチズム台頭の歴史などを紹介しており、近代建築と芸術の原点に触れることができます。

革製品や布地などのデリケートな収蔵品を保護するため、光や湿度は厳格に管理されています。

バウハウスが学校として存在したのはわずか14年ですが、移転に伴う3つの発展段階がありました。カラフルで実験的、方向性の模索が中心だったワイマール校時代、産業と現代デザイン思考の組み合わせにより創造的な発展をとげたデッサウ校時代、そして、最終段階といえるベルリン校時代です。博物館内をゆっくり回ることで、それぞれの時代の特徴が見てとれます。

ワイマール・バウハウス大学

世界遺産にも登録されているワイマール・バウハウス大学(Bauhaus-Universität Weimar)は、その名の通り、バウハウスの流れをくむ大学です。元のバウハウスの校舎が、工業デザイン学校、さらに建築土木工科となり、1996年にバウハウス大学へと改称されました。

現在は「建築と都市計画」「建設と環境」「美術とデザイン」「メディア」の4部門で学生たちが学んでおり、校舎内は誰でも自由に見学できます。バウハウスの基礎教育で繰り返し取り上げられた円・三角形・四角形の基本形と、赤・黄・青の基本色が用いられたデザインが各所にあります。

正面の入り口から奥へ進んだところにあるらせん階段を見上げれば、形と素材そのものの美しさを追求し、装飾を省いたシンプルなデザインに、バウハウスの精神が見てとれるでしょう。

1999年に再現された学長グロピウスの部屋(校長室)にも、バウハウス様式の基本色が用いられています。家具と天井照明は家具・金属工房が、カーペットやタペストリーは織物工房が制作したもので、机上には、バウハウスで学んだヴィルヘルム・ヴァーゲンフェルトとカール・ヤコブ・ユッカーのテーブルランプがあり、往時を偲ばせます。

文学や音楽だけでなく、近代デザインの原点となるモダニズムの舞台でもある街、ワイマール。この街を訪れたなら、バウハウス博物館やバウハウス大学に足を運んで、現在の私たちの暮らしにも大きな影響を与えている近代建築とデザインの世界にじっくりと浸ってみてはいかがでしょうか。

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