古城とビールだけじゃないドイツへ。世界遺産の森を歩くハイニッヒ国立公園への旅

ドイツ旅行と聞くと、おとぎ話に登場する石造りの古城や木組みの家が並ぶ街並み、音楽や美術といった文化、そして本場のビールやソーセージなどを思い浮かべる方が多いでしょう。そのような定番の楽しみ方も素敵ですが、ヨーロッパの自然の歴史を今に伝える世界遺産の森を訪ねてみるのも、忘れられない体験になるに違いありません。

ドイツ中部、テューリンゲン州に位置する「ハイニッヒ国立公園(Hainich National Park)」は、手つかずの自然に近い森の姿を体感できる広大な落葉樹林地帯です。総面積160平方キロメートルを誇るドイツ最大の連続落葉樹林地帯であり、ユネスコの世界自然遺産「カルパティア山脈と他のヨーロッパ地域のブナ原生林」の一つとして登録されています。
ドイツの自然と歴史を物語る、古代ブナの森

ドイツの自然や歴史を語るうえで、ブナの森林は欠かすことができません。豊かな落葉と深く土壌層まで伸びる根によって良好な土壌環境を作り出すヨーロッパブナは、中央ヨーロッパの温帯林を代表する樹木のひとつです。
最終氷期が終わった約1万1,000年前以降、気候の変化とともにヨーロッパ各地へと分布を広げ、現在の森林景観を形づくる重要な存在となりました。ブナの森は、多種多様な動植物に生息地を提供するだけでなく、長い時間をかけて形成されてきたヨーロッパの自然環境を理解する手がかりをも与えてくれます。
また、ドイツでは森林は自然環境であると同時に、人々の暮らしや地域の歴史とも深く結びついてきました。木材などの資源を得る場であり、農村の生活を支え、文学や芸術作品のなかでも繰り返し描かれてきた風景です。人の手が入った森と、自然の営みに委ねられた森。その違いを知ることは、ドイツの自然と人間との関係を理解するのに役立ちます。
かつて冷戦期の東ドイツ時代に軍事的な理由で立ち入りが制限され、森林の一部では大規模な開発や通常の林業による影響が抑えられていたこともあって、ハイニッヒ国立公園に広がるブナの森は、人間の介入なしに現在の自然景観が形成されました。
巨大なブナの木々が広範囲にわたって生い茂り、倒れた老木が土へ還って次の命を支えることで、森全体がゆっくりと変化していく……。そうした森林の自然な循環と生き物たちが織りなす複雑な生態系を包括的に観察できるのが、古代ブナの森の大きな価値と言えるでしょう。
自然がそのままの姿で保たれているハイニッヒ国立公園

ドイツ中部、テューリンゲン州のハイニッヒ一帯は、まとまった広さの落葉広葉樹林が残るエリアで、その南部の約75平方キロメートルが、1997年に国立公園に指定されました。


ハイニッヒ国立公園内には、絶滅危惧種の動物を含め、園内には約10,000種もの動植物が生息しています。古いブナの木の空洞や割れ目や節穴をのぞけば、ベヒシュタインコウモリやアカゲラなどの住処を見つけられるかもしれません。

国立公園の大部分は手つかずの原生林ですが、全長120キロメートルを超える20本の標識付きの遊歩道(多くは周回コース)が整備されており、気軽にハイキングを楽しめます。歩きやすい靴さえあれば、特別な装備は要りません。
森に足を踏み入れると、まっすぐに伸びるブナの幹や、頭上を覆う葉の重なりが目に入ります。地面に横たわる倒木は、枯れてキノコや昆虫のすみかとなり、やがて土へと還っていきます。そのサイクルは、まさに自然の営みそのもの。整然と手入れされた森とは違い、ここでは木々が成長し、枯れ、次の世代へと命をつないでいるのです。
特に人気の高い周回コースは「世界遺産の小径」で、全長約9.5キロメートルをおよそ3時間半から4時間かけて歩くことで、ブナ林の多彩な表情をじっくり楽しめます。

森を地上から眺めるだけでは物足りないなら、森の樹冠の高さに設けられた遊歩道(キャノピーウォーク)を歩いてみてください。キャノピーウォークの入り口は、国立公園内のハイキングコースの出発点として人気の高いティームスブルク国立公園センターの近くにあります。

地上から木々を見上げるハイキングとは違い、こちらは木の枝葉が広がる、地上約24〜25メートルの高さまで歩道を上っていく体験型の施設です。樹冠の間を縫うように延びる歩道からは、普段は見られない森の表情を間近に観察できます。

キャノピーウォークの長さは約540メートル。木々の葉と同じ高さに立つと、鳥のさえずりが近くに感じられ、葉の隙間から差し込む光もまた違った印象を与えてくれます。

さらに高い位置からは広大な森林の広がりを見渡すこともできます。

地上の散策では森の内部を歩き、キャノピーウォークでは森を上から眺めるというように、両方を体験すれば、ハイニッヒの自然をより立体的に楽しめることでしょう。

ブナ林を上から一望できるのに加え、地平線も望める展望台もあります。春には色とりどりの花が咲きみだれ、秋には一面に紅葉が広がり、季節ごとに異なる景観を眺められる、絶景スポットです。

個人で訪れることもできますが、毎週週末には、国立公園管理局の職員やボランティアの国立公園ガイドが、ガイド付きウォーキングツアーやその他のアクティビティを提供しています。レンジャーによる自然探検ツアー、植物や動物の種類といった特定のテーマに沿ったツアーなど、さまざまなプログラムが用意されているので、興味があれば公式サイトを確認してみてください。
ドイツの旅に、もうひとつの世界遺産を

ドイツには、城や宮殿、歴史ある街並み、音楽や美術といった文化的な魅力がたくさんあります。一方で、この国のことをより深く知るには、自然のなかに身を置いてみるのもひとつの方法です。
ハイニッヒ国立公園に広がるブナの森は、長い時間をかけて形づくられたヨーロッパの自然を伝えています。古城を訪ね、ビールを味わう旅ももちろん楽しいでしょう。けれど、少し足を延ばして森の小径を歩き、鳥の声に耳を澄ませ、木漏れ日の下で一息つけば、観光名所を巡る旅とはひと味違う、ドイツの奥深い魅力を発見できるかもしれません。

次にドイツを旅することがあれば、世界遺産の森を歩いてみませんか。木々のざわめきに耳を傾ける時間が、旅の記憶を美しく彩ってくれるはずです。
名称 ハイニッヒ国立公園(Hainich National Park / Nationalparkverwaltung Hainich)
所在地 Lindenhof 3, 99998 Mühlhausen/Thüringen-Seebach, ドイツ
公式サイト https://www.nationalpark-hainich.de/en/
Post: GoTrip! https://gotrip.jp/ 旅に行きたくなるメディア