インドネシア・バリ島の繁華街レギャンに佇む「悲劇の記憶」


インドネシア・バリ島の繁華街レギャン。

その中心部にあるモニュメントは、賑やかな環境の中にあって異様な静けさを保っています。

その理由は、ここが慰霊碑だから。2002年10月12日を、バリの住民は永遠に忘れないでしょう。当時ここに存在したディスコが自動車爆弾により破壊され、202名もの死者が出てしまいました。

外国人観光客の笑い声が溢れるクタにあって、ここだけは「特別な場所」と言えます。

・歓楽街とテロリズム

バリ島は、言わずもがなアジア有数のリゾート地です。最近では日本からエアアジアグループの直行便が通るようになり、その集客が見込まれます。

ですが、そのような地域がテロリズムの対象になりやすいというのも事実。バリ島はイスラム過激派から見れば「不純な歓楽街」。バー、ディスコ、レストランといったものは全て破壊の対象です。

楽しいはずの海外旅行が、1発の爆弾によって地獄に変わる。想像すらしたくないことですが、その可能性が否定できないのも事実。我々現代人は「テロの時代」に生きているということは忘れてはいけません。

そしてテロは、人々の心に大きな傷痕を残します。

温厚で受け身、プラス思考なバリ人ですが、2002年の事件のこととなると明るい表情に影を落とします。誰しもが口にしたくない、けれど振り返らざるを得ない出来事。ディスコ跡に建てられたモニュメントを見るたび、バリ人は15年前にタイムスリップします。あの日の悲しみを振り返るために。

・テロはすぐ身近に

慰霊碑には、犠牲者ひとりひとりの名が刻まれています。その中には、2名の日本人も。

「悲劇を風化させてはならない」とよく言われますが、この世界にテロがある限り2002年の事件は決して風化することはありません。ある特定の思想を暴力で押し付ける卑劣な行為がテロリズムです。そして観光旅行者は、しばしばテロリズムの対象になってしまいます。

日本の外務省は、昨年7月のバングラディシュでのテロ事件以来「海外渡航者の安全確保」により一層力を入れるようになりました。個人でも現地情報の収集をするように呼びかけていますが、一見安全そうな地域でも気を抜くことはできません。むしろテロリストは「安全そうな地域」にターゲットを絞ります。

・刻まれた犠牲者の名前

バリの民族衣装に身を包んだ男性が、モニュメントの前で祈りを捧げています。

声をかけてみると、その男性はカトリックの神父さんとのこと。確かに、小さく十字を切っていたのが見えました。

レギャンは今日も、世界中から大勢の観光客を集めています。バーのカウンターに入ってビールを注文し、辺りを振り回す。そこには笑顔が溢れています。とてもそこで悲惨なテロが発生したとは思えないくらいです。

しかし、その記憶は今も街の中心地にしっかりと刻まれています。

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