インドネシア・コモド島における観光政策の「光と影」

インドネシアの世界遺産といえば、コモド国立公園を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

東ヌサ・トゥンガラ州コモド島及びリンチャ島に生息するコモドドラゴンは、「世界最強の爬虫類」として日本人の間でも知られるようになりました。

これはコメディアンが出演した番組の影響もあるかと思いますが、いずれにせよバリ島一辺倒だったインドネシアのイメージが変わりつつあるのは事実。

コモド国立公園は厳格な管理下に置かれているとはいえ、一般旅行者がここを訪れることはもちろん可能です。また、インドネシア政府は現在コモド島周辺地域の観光業発展に力を入れているという背景もあります。

・爬虫類研究を発展させたコモドドラゴン
コモド島に入島する際、まずは通路を沿って管理事務所に行かなければなりません。

コモドドラゴンは、非常に危険な生物。レンジャーの同伴なしに生息地帯へ行くことは禁止されています。万が一コモドドラゴンに噛まれたら、血液の凝固を阻止する毒が傷口に浸透して、最悪命を落としてしまいます。

ですが、レンジャーの指示に従っていれば安全なトレッキングを楽しむことができます。普段のコモドドラゴンはあまり移動をせず、まるでその巨体を持て余すかのようにじっとしています。

コモドドラゴンは、20世紀に入るまでは現地部族の間にしか知られていない動物でした。ですからヨーロッパ人の視点から見た「コモドドラゴンの発見」は、今から100年ほど前の話です。当時は恐竜についての研究が急速に進歩していて、コモドドラゴンは「恐竜の生き残りではないか」という説も唱えられました。

いずれにせよ、この生物が爬虫類学術史に大きな足跡を残したことは事実です。

・「コモドブーム」の影響
21世紀の現在、コモド国立公園はインドネシアの経済発展を左右する重要拠点になりました。

東ヌサ・トゥンガラ州は、インドネシアの中において「取り残された地域」と言われています。そもそもが山がちの地形で、目立った天然資源もありません。ですから、中央政府は東ヌサ・トゥンガラ州に属するコモド国立公園を軸とした観光整備を行おうとしています。

現にコモド島の世界的認知によって、入島登録事務所のあるフローレス島ラブアンバジョーは発展を遂げています。世界自然遺産に登録された国立公園ですから、コモド島やリンチャ島の中に空港を作ることはできないのです。コモドドラゴンが目的の旅行者は、必ずラブアンバジョーを経由することになります。

少し前までは小さな港町に過ぎなかったラブアンバジョーが、このような形で経済的成長を遂げています。

・ゴミの処理が問題に
ですが、問題もあります。ここから先の話は、それを目の当たりにした以上何が何でもお伝えしなければなりません。

コモド島の海岸には、日々大量のゴミが打ち上げられています。これは地元の漁師が海中投棄したもので、ペットボトルやサンダル、壊れたプラスチック容器、毛布なども見受けられます。

インドネシアのゴミ問題は、全国的な社会問題として提起されています。ジャカルタでも市内を流れる川におびただしい量のゴミが浮かび、その処理のために軍が投入されたということもありました。

人々が何気なくポイ捨てしたゴミが、巨魁となってコモド島の海岸に流れ着く光景。嫌悪すら覚えてしまいますが、だからといって目を背けては問題解決とはなりません。

ですが今、都市部の市民を中心に海岸のゴミを回収するボランティア活動が盛んになりつつあります。自国と経済先進国との衛生環境の違いを痛感した市民が、「このままではいけない」という決意で立ち上がったのです。

ジャカルタやバリ南部でも、清掃ボランティア団体が次々と立ち上がっています。市民一人ひとりの抱く危機感が大きな力となり、いずれは地方島嶼部へそれが波及することでしょう。

我々人類と希少生物との共生は、1本のペットボトルを拾うことから始まります。

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