ボスポラス海峡にポツリと浮かぶロマンティックな「乙女の塔」の知られざる悲しい伝説とは?

ボスポラス海峡が大陸をヨーロッパとアジアに二分するトルコ最大の都市、イスタンブール。世界遺産に登録されている「イスタンブール歴史地区」をはじめ、トルコ人たちの温かさや美味しい食べ物、西洋と東洋が交わるこの街ならではの異国情緒たっぷりの雰囲気は、世界中の多くの人々を魅了しています。

多くの旅行者は観光の中心地であるヨーロッパ側で散策を楽しみますが、実はアジア側にもイスタンブールの魅力は隠されているのです。

イスタンブールのアジア側を代表する街のひとつにユスキュダルがあります。ユスキュダルはボスポラス海峡に面しており、市場やモスク、住宅街などがあり、ヨーロッパ側のようにこれといって目立つ観光スポットがないため、飾らない庶民の暮らしを垣間見ることができるエリアなのです。

そんなユスキュダルの海峡沿いを散策すると、突如ボスポラス海峡にポツンと浮かぶ不思議な塔に出くわします。それが「乙女の塔」です。

波打つ海峡に浮かぶ塔は、ボスポラス海峡を行き来する船からも見ることができますが、ユスキュダルの海峡沿いから眺める景観は格別。この街のシンボルマークともいえる存在です。

ところで、なぜこの塔は「乙女」と呼ばれているのでしょうか。この塔にまつわる言い伝えを二つご紹介しましょう。

一つ目は、ある皇帝と娘にまつわる悲しい言い伝えです。

ある皇帝の娘は、「18歳の誕生日に蛇にかまれて殺される」と占い師に予言されました。娘を大変愛していた皇帝は、蛇が侵入できない海の上にあるこの塔に娘を住まわせました。唯一この塔に訪れることができるのは皇帝のみでした。

そして娘の18歳の誕生日、皇帝はプレゼントとして、籠いっぱいの果物を娘のいる塔に持っていきました。無事18歳の誕生日を過ごすことができるかのように思えましたが、なんと不幸なことに、この籠に毒蛇が隠れていたのです。娘は毒蛇に噛まれ、予言通り皇帝の腕の中で18歳の誕生日に息を引き取ったといいます。

またこれとは別に、ギリシア神話に登場するヘーローとレアンドロスに関する伝説も残されています。

ヘレスポントス、つまり現在のダーダネルス海峡のヨーロッパ側の岸にある塔に住む女神官ヘーローに、アジア側の岸に住む青年レアンドロスは恋をしました。レアンドロスは対岸のヘーローに会うために、毎晩ダーダネルス海峡を泳いで渡りました。ヘーローは塔から明かりを灯し、レアンドロスはそれを目印に恋人のところへとやってきました。二人は夏の間、恋人同士の時間を過ごしました。

ある冬の嵐の夜、いつものようにヘーローのもとへと向かおうしたレアンドロスは、嵐がヘーローの明かりを消し去ってしまい方向を見失い、波にのまれて溺死してしまいました。目の前で恋人が死んでいくのを目の当たりにしたヘーローは発狂し、後を追うように嵐の夜に自ら海峡に身を投げたといいます。

ダーダネルス海峡がボスポラス海峡に地理的にも近く似ているため、この物語に因んで名づけられたとも考えられています。

ユスキュダルの街、そしてボスポラス海峡をもより魅力的にする要素のひとつである「乙女の塔」には、実はこのような伝説があったのです。

名前は可愛らしいのに、実は悲しい言い伝えを持つ「乙女の塔」。このような言い伝えを知ってからユスキュダルを訪れると、イスタンブールのアジア側の観光がより奥深くなるかもしれません。

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名前 乙女の塔(Kız Kulesi)
所在地 Salacak, Üsküdar Salacak Mevkii, 34668 Üsküdar/İstanbul